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ルームシェアをテーマとしたリノベーションで団地を住み継ぐ
開かれたコミュニティーという団地ならではの特徴を継承

CREATOR’S VOICE

榊原節子建築研究所

事業提案競技に応募されたきっかけは何でしょうか。

 世間一般的にみると団地の築年数は40~50年ぐらい経っていて、これからどう暮らしていくか、どう持続させていくのかが課題になっています。しかし、現在団地にお住まいの方はもちろん、これから団地を選んで住むという次の世代の方にも住み継いでいく可能性を持っている住宅だと感じています。今回、『ニコイチ』のリノベーションに関する募集要項を拝見して、団地が持っている元々のコミュニティー的な繋がりから、新しい住まい方というものが継続できる可能性を感じたので応募しました。

団地に対してどのようなイメージを持っていましたか。

 団地についてはとても親しみを感じています。というのも私が子どもの頃、父の仕事の都合で転勤が多く、団地の社宅を転々とする家庭環境で育ちました。決して広くないお風呂や田の字型の間取りは馴染み深いですし、団地での暮らしは懐かしい原風景として私の中にしっかり残っています。
 団地というのは、住棟間隔や日当たり、敷地内の植栽などよく考えられて計画されています。暮らしやすさや住民同士のふれ合いや食と住の機能デザインなどの設計思想が充実していて、数十年も前に考えられた住みやすさが今も十分に受け継がれていることに感銘を覚えます。私は大学で建築について教えているのですが、学生が自分でテーマを決めて取り組む卒業設計で団地再生がテーマに選ばれることも多く、若い人も団地に対し可能性を見出していることがよく分かります。

大阪府住宅供給公社が行っている『ニコイチ』の取組みについてどう思われますか。

 隣り合う2つの住戸を一つにする「ニコイチ」という発想に、フレキシブルさと斬新さを感じました。今回のお部屋は、住戸と住戸の間の壁が取り外すことができない構造壁となっていることや設備の古さなど一定の規制はあるものの、それをいかに上手く工夫して設計するかがテーマだと感じました。

今回は3部屋を設計していただきました。それぞれのお部屋の設計のコンセプト、住まい方のイメージ、設計段階で気をつけたポイントを教えてください。

【作品1】『ニコイチ(ルームシェア)』コンセプト:「職」と「食」で集う住まい

 元々、団地は都心部で働いて住むのは郊外という考えのもと、暮らしに関する色々なものを充実させようと設計されてきました。でも、近年では在宅勤務や個人事業主、子育てしながら自宅で仕事したりと働き方自体が多様化してきていますし、これからもいろいろな働き方が増えていくのではないかと感じています。そういう観点から、仕事と自分の居場所が一緒になる住まいをコンセプトにしました。また、食べるということはコミュニケーションを取る上で大事な時間と考え、設計に反映しました。
 ルームシェアする方々の個室3室はプライバシーを確保しつつ、「ワークラボ」や「食の間」はみんなが集って仕事をしたり食卓を囲む使い方を想定しています。また、「集いの間」は仕事関係の打ち合わせをはじめ作品の展示、展覧会、販売などもできます。地域住民との開かれた繋がりも意識して、みんなが集いやすいコモンスペースになるように、土足で入れる土間仕様にしています。
 部屋の用途は住んでいくうちに決まっていくものなので、住人によって変わってくると思うのですが、住人はもちろん団地内の方を招いて、一緒に料理や食事をすることでコミュニケーションを深めるという、多くの人に開かれた中間領域的な集いの場になることを意識しました。

ルームシェアでは、どんな入居者様をイメージされましたか。

 モノ作りをしている方、クリエイティブな活動をされている方、食に関する仕事をしている方、パソコンを使うデスクワークをされている方など、何かを生み出す仕事をされている方をイメージしました。同業者同士が一緒に住んでも良いし、異業種の方が集まって住んでも良いと思います。同居人同士が刺激し合って画期的なアイディアが浮かぶかもしれませんし、コラボレーションして作品を作るなんていうのもいいですね。

「ワークラボ」イメージ

「食の間」イメージ

【作品2】『ニコイチ』コンセプト:ふたつの「内庭」のある住まい

 子育て世代の家族が住むことをイメージして設計しました。団地内でのコミュニティーとも繋がりつつ、家族のスペースを確保できる場所を盛り込みました。コミュニティーのための場としては、「内庭1」を土間にすることで、ママ友やイクメンのお父さんはもちろん、近所の方が気軽に遊びに寄ってくれるようなスペースを意図しました。子ども同士が遊ぶ土間の横の広縁で、大人同士が子どもを見守りながら会話を楽しむといった使い方ができれば楽しいなと思います。
 家族のための場としては、サンルームやランドリールームとしても使える「内庭2」を設けています。観葉植物を育てたり、天候が悪いときや花粉が気になるときには室内で洗濯物が干せるようにしています。

「内庭1」親子スペースのイメージ

「内庭2」家族の半屋外スペースのイメージ

【作品3】『リノベ45』コンセプト:「公」「私」をゆるやかに繋ぐ住まい

 新婚、熟年夫婦、母子・父子家庭の方はもちろん、カップルや友人同士といった方々が住むことをイメージして設計しました。書斎や家事室、デスクワークなど多用途に利用できる土間を設け、収納や居間の壁は高さ2mまでにして天井が続くよう設計することで、部屋を仕切りながらも空間の広がりや繋がりを意識した造りにしています。

「土間」イメージ

公社のリノベーションの可能性についてどう思われますか

 茶山台団地の環境は、緑が多く都市部に比べ空気の質が違うように感じます。敷地も全体的にゆったりしていて気持ちの余裕が生まれるような環境で、子育て環境にはもってこいだと思います。1戸だと家族で住むには狭いけど、2戸を一つにつなげると部屋がかなり広くなり色々な余裕がでてきますので、家族で工夫しながら住んでいけると思います。先にも述べましたが団地の環境設計は、本当によく考えられているというのがベースにあるので『ニコイチ』に対する期待感がとても高く、これからますます可能性が広がっていくと感じています。

(取材日:2019年9月3日)

プロフィール

榊原節子建築研究所
榊原 節子(一級建築士)
公益社団法人 日本建築家協会 所属
公益社団法人 大阪府建築士会 所属

1993年 名古屋大学 経済学部 卒業
1993年 東海旅客鉄道株式会社(JR東海)
2005年 arte空間研究所
2009年 榊原節子建築研究所 設立
2014年 大阪芸術大学 非常勤講師
2015年 神戸松蔭女子学院大学 非常勤講師
2017年 神戸芸術工科大学 非常勤講師

受賞歴
2009年 第6回真の日本のすまい 住宅金融支援機構理事長賞
2012年 第28回住まいのリフォームコンクール 優秀賞
2013年 SD Review 2013 朝倉賞
LIXIL デザインコンテスト2013 入賞
2014年 第9回 関西建築家新人賞 審査員奨励賞
2016年 住まいの環境デザインアワード2016 入賞
2019年 令和元年度公社茶山台団地住戸改善事業 事業提案競技 最優秀賞