団地という場所はコミュニケーションを楽しめる形式になっている
Plan 6~9
今年、株式会社長尾工務店と株式会社PERSIMMON HILLS architects/柿木佑介+廣岡周平が共同で設計・提案した作品は、「大阪府住宅供給公社茶山台団地・香里三井C団地住戸改善事業 設計・施工業務」の事業提案協議において、 C業務(香里三井C団地リノベーション)の最優秀提案者として選定されました。株式会社PERSIMMON HILLS architectsの廣岡さんにお話を伺いました。
「団地」に対してどのようなイメージをお持ちでしたか?
元々学生の頃から団地というものに興味があって、横浜の左近山団地を対象に団地の研究等を行っていました。その当時から感じていたのですが、団地の持っている役割が変化しつつあると思うんです。子育てを行う人が増えていくための器としてどうあるかという役割から、緑豊かな環境により公共スペースとしても住環境としても素敵な役割を担える場所へと変化していると思います。しかしその役割に団地の仕組みがうまくシフトしていないという印象があります。そこの意識や作り方を変えることができたらものすごくハッピーな場所として団地が成立するんじゃないかという思いがありました。
設計のコンセプトを教えてください。
今回の事業の舞台となった香里三井C団地は、高低差が豊かで緑もすごく多い場所なので、窓辺が居場所として顕在化してくるんじゃないかと考えました。窓から見える住棟の風景に合わせて窓辺にプランターを置いたり、窓辺の空間を縁側のように使ったり…。窓辺を魅力的にデザインした「窓間」と出窓を内側に付けるような形の「内出窓」を各プランに取り入れ、外部の空間に対して窓自体が一つの媒介になるようなコンセプトを持って設計しました。
また団地の痕跡が見えるようにというか、元の住戸の名残を各所に残しています。今までのものを否定するのではなく、新しい価値を与えるために何かしら付け足していったという感覚なので、窓がメインのプランに見えるかもしれないですが、窓を媒介にして今の団地をアップデートしているイメージです。
ニコイチ「寝窓間がまるで秘密基地のような家」間取図、イメージパース
まず「寝窓間がまるで秘密基地のような家」は、窓辺にパイン材を多く使い、まるで木でできた小屋のような居心地のよい窓間を三つ作っています。それぞれの窓間は、畳を置いたり、寝室として使えるように小さ目のサイズにしたり、様々なタイプの窓間を組み合わせています。これらの窓間は小上がりのように少し段差があることで、LDKや通り庭が土間のような場所として生活の中で認識されるのが面白いんじゃないかと考えています。
ニコイチ「くつろぎの縁側窓間がある家」間取図、イメージパース
「くつろぎの縁側窓間がある家」は、“縁側窓間”と名付けた窓間で2つの住戸をつないでいます。この部分も小上がりのように一段上がった形にし、それに加えて天井も少し低くすることでふつうのLDKとはまた違う落ち着きのある空間が広がっています。また今まであった部屋割りを半分は残していて、それによって団地の今までのくらしのチャンネルを少し変えれば新しいくらしを想像することができる提案にしています。
ニコイチ「出窓がアクセントとなる家」間取図、イメージパース
「出窓がアクセントとなる家」は、窓間は設けず、内出窓だけで構成した住戸です。そうすることによってLDKが大きな空間となるので子育てするには何かと使いやすいんじゃないかなと思います。またLDKが広い分、じゅうたんを置いたり自分でディスプレイするのを楽しみながら住んでもらいたいですね。内出窓にも少しずつ変化をつけていて、ベンチのように腰かけられるタイプやテーブルのように使えるタイプなど各部屋のキャラクターを付けていくようなデザインにしています。
ニコイチ「住まいながらDIYが楽しめる家」間取図、イメージパース
「住まいながらDIYが楽しめる家」は、畳窓間と内出窓を組み合わせてLDKを作っているんですが、各個室部分はDIYができるようなしつらえにしています。DIYをする際に、畳窓間や内出窓が何かヒントになればいいなと思います。内出窓を見て、窓の枠を作ってみようかな…とか。入居者さんが自分たちの居場所を作っていくきっかけになってほしいですね。
どのプランもLDKが広いですが、何か狙いはあるんでしょうか?
今回設計するに当たって、単純に部屋の数を増やすということは、現在の団地が持っている役割と少しずれる気がしました。元々3部屋+キッチンの住戸を単純に2戸つなげると、6部屋+2つのキッチンという間取りになりますが、そうなるとシェアハウスのような空間になりますよね。高密度な空間を作るというよりかは、ゆったりのびのびとくらせる部屋の方が香里三井C団地の土地柄にも合っていると思い、今回のようなデザインにしました。居室の間の通路も広めにして、ゆとりを持たせています。
どのような方に住んでもらいたいですか?
「団地」という場所はコミュニケーションを楽しめる形式になっていると思うんです。そうなっていないとすれば、そのようにしていかないといけない。子育て世帯におすすめのお部屋であることはもちろんですが、その中でもいろんな方と話したり、コミュニケーションを取りたい方っていうのはすごく団地に適しているんじゃないかなと思います。現代では、コミュニケーションを取ることやコミュニティを疎ましく思う方がいらっしゃると思います。でもその逆にコミュニティが好きで、集まってくらしたい方もたくさんいらっしゃいますよね。大きな「まち」という単位の中で考えた時に、そういう方たちの受け皿として団地があるっていうのは重要なことだと思います。
団地で行うリノベーションの可能性について聞かせてください。
今回のニコイチは子育て世帯向けですが、そこに限らず様々なバリエーションがあってもいいんじゃないかなと思います。お年寄りが集まって住むことができるタイプがあったり部屋の半分が広いキッチンになっていてオープンスペースとして利用できるようなタイプがあったり…。農園があってもおもしろいですよね。リノベーションをして、若い世帯が住むようになったら元の活気がもどるかというとそうではないので、外部環境も含めて団地の魅力を発信していけるようなリノベーションを行っていくことが今後の団地にとっては重要だと思います。
プロフィール
廣岡周平
1985年 大阪府羽曳野市生まれ
2008年 関西大学工学部建築学科(江川研究室) 卒業
2010年 横浜国立大学大学院Y-GSA 卒業
2011年 SUEP
2015年 大成建設設計部
2016年 PERSIMMON HILLS architects 設立